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《みの》には、クルマを見知らぬ他人に売ってしまうという事態がどうしても理解できないようすだった。11年乗った前車RVRは友人のガンゼさんに譲った。いまも北海道で現役でがんばっている。だから、今度も知ってるひとにあげようよ、という。
「できれば、そうしたいんだけどね……」
わたしは、クルマを買い替える必要があること、そのためにはステッピーの売却代を原資にしなければならないこと、身近にステップワゴンを相応の値段で買おうというひとがいないこと、だから誰かこのクルマを気に入ってくれる「うちみたいに子どもが三人もいるような」ひとに買ってもらう必要があること、を説明した。初めて子どもたちにこのことを告げた昨晩以降、もう3,4回、同じことを話したろうか。
「もうこのクルマに会えない?」
《みの》は訊ねた。
「またどこかで会えるかもしれないね」
「じゃあ、ステップワゴンのどこかに印を付けておこうよ! 青いマジックか何かで。すぐわかるように」
名案を思いついた、といった面持ちで、《みの》がうれしそうに笑った。
「マジックで印をつけるわけにはいかないけど、次にこのクルマを買ってくれるひとも、たぶんこのカーテンは取り替えないとおもうよ。だからこれがきっと目印になるよ」
ステッピーのカーテンは、車中泊のためにわたしがDIYで後付したものだ。苦し紛れだったが、《みの》はそれでも一応納得したという表情をしてくれた。
明け方、目を覚ました。あたりは一面霧に包まれていた。
お手洗いに行きたくなったわたしと《みの》は、霧のなかを歩いて、いったん自宅へ行き用をすませ、再びステッピーに戻ってきた。6時をすぎると徐々に明るくなってきた。日が昇りはじめるにつれて、霧は少しずつ晴れていった。《みの》をクルマの横に立たせて、写真を撮った。次に同じようにして、《みの》がわたしとステッピーの写真を撮ってくれた。
朝食後《みの》はいつものように学校へ行った。
保育園に行くために玄関を出るとき、《なな》が「ステップワゴンのところで写真を撮るのは、明日?」と訊いた。「残念だけど、明日では間にあわないんだ」。《なな》と《くんくん》、そして《あ》がステッピーの横に立ってカメラに収まった。
10時半ごろ電話がかかってきた。陸送屋さんからだった。待ち合わせ場所にまもなく到着するという。
待ち合わせ場所まで、ステッピーで5分とかからなかった。5台積みのキャリアカーにはすでに2台のクルマが積まれていた。ドライバーは手慣れたようすでステッピーの外装をチェックしたあと、運転席の横の窓から半身を乗り出すような格好で運転して、ステッピーをキャリアカーの下段に積み込んだ。固定フックを引っかけ、ワイヤーを引っ張ってステッピーを固定すると、もう作業はおしまいなのだった。
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