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散歩旅のもくじ


マウイ──2000/09
 
1 ──アイスクリーム
2──ハナの南へ
3──キパフルの虹

     

1アイスクリーム

 

 カウンターのまえには、いつのまにか行列ができていた。
 先頭の男は、なにやら早口で店のおばさんに注文をつけていた。一言二言ですむような用件ではないのか、山盛りのプレートランチをはさんで、えんえんと話はつきないようだった。早口の英語でまくしたてるので、なにがどうなっているのか、わたしにはさっぱり理解できなかった。ふたりとも、うしろにならんだ10人ばかりの客のことなど、路傍の石のように黙殺していた。10分以上もたったろうか、ついに男は納得したようすで、プレートを片手にカウンターを離れた。
 ようやく、わたしの番になった。おばさんに「アイスクリームを三つ、バニラとストロベリーとマウイ・サンセットってやつね」と注文した。おばさんはふむふむとうなづきながら、それを伝票代わりのメモ用紙に鉛筆で書きつけると、なにやら調理場のなかを忙しそうに右往左往していた。しばらくして、ふたたびカウンターにやってきた。わたしのほうをむいて、言った。「それで、ご注文は?」
 「もうしたよ。アイスクリーム三つ」と、見かけによらずひとのいいわたしは、うんざりした気持ちをサングラスの下に押し隠して言った。おばさんは、さすがに気が引けたのか、あわててステンレスのアイスクリーム缶をあけようとして、蓋を下に落としてしまった。盛大な音がした。

店の名は Tutu's という。ガイドブックには必ず載っている。ハナ湾にあるビーチの脇にある。ツアーバスが頻繁にやってきて、のんびりしたハナの町のなかでは、かなりにぎやかな場所だ。ハナ湾をながめながらのアイスクリームは、たしかにおいしい。店の隣がトイレなのが、難といえば難。  
   

 朝から断続的に雨が降っていた。屋根のついたベンチに腰かけて、《あ》と《みの》と《なな》は、ハナ湾をながめながら、それぞれアイスクリームをたべた。この店の名物という、マウイ・サンセットは、貼り紙によればパイナップルとオレンジとをミックスしたようなものだという。一口なめてみたが、甘さが適度に抑えてあり、おいしかった。
 雨の合間をついて、波打ち際にいってみた。半ズボンをたくしあげた《みの》が、波に足をひたしているのを、《なな》は心配そうに見ていた。そしてときおり、「おにーちゃーん、いっちゃだめだよおー」と消え入りそうな声でいうのだった。

 

ハナ湾のビーチ。雨雲が迫り、防波堤の向こうに波が砕けていた。  
     ハナ湾の対岸の上に、鉛色の雲が現れた。やがて霧に煙るように、対岸の緑が見えなくなった。波打ち際を走っている《みの》に向かって「すぐに雨がくるから、行くぞ!」と声をかけた瞬間、さあーっと雨粒が落ちてきた。

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