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散歩旅のもくじ


早春の北海道を駆ける

2002年3月

 
  1──森のなかのピザ屋さん
2──十勝岳温泉カミホロ荘
3──夕陽荘
4──石狩川河口を歩く
5──島牧で焼き物をつくる

ルート図

     
1
 
森のなかのピザ屋さん
 

 その店の名は「ココペリ」という。旭川郊外の当麻町で友人が開業したばかりのピザ屋さんである。今回の旅の目的は、北海道に暮らす旧知の友人を訪ねようというものだ。

 JASの誕生日割引運賃──国内どこへでもひとり1万円──を利用して、旭川空港へやってきた。ここで、予約していたクルマを借りる。ニッポンレンタカーのサイトで見つけた冬期北海道限定の割引プランを利用。ナビと乗り捨て料金が無料、制限距離なしという好条件である。四駆の小型乗用車というカテゴリーで予約したら、クルマはCR-V(初期型)であった。

 いったん旭川市街へでて、子どもたちの紙おむつを調達した。0歳児の《くんくん》だけでなく、3歳半の《なな》もまだ紙パンツが必要だ。

 旭川から東へ向かって20kmほど走り、当麻駅に着いた。踏切を渡って、町営スキー場をめざす。スキー場の向かいの森のなかに立つ、小さな木造のパオのような建物が、ココペリであった。
 ここの主人《べーす》さんご夫妻とは、もう二昔も前──わたしが大学生だったころ──に、同じ北海道の島牧YHでヘルパーとして一緒に働いたことがある。その後かれは、各地で料理の修業を積み、2001年春にこの地に念願のお店をもつことになった。直接会うのは、6-7年ぶりのことだ。



 パオ状の建物はセルフビルド。円形の店内は、半分が厨房で、残り半分にテーブルが3卓しつらえてある。いちばん奥のテーブルに案内された。ここからは、正面に大雪山をのぞむことができる。あいにくこの日は曇りで、しかも19年ぶりという黄砂が降っていたのだが。
     
   
     
     ピザ──とりわけアンチョビのがうまかった──、パスタ──オムレツ風というのがおもしろかった──、生タコのサラダなどをいただく。子どもたちは、自家製アイスクリーム──みずから飼育しているニワトリの卵を使用──を山ほどたいらげ、すっかり満足すると、店の外に遊びにいった。ここには《みの》や《なな》の大好きな木枝の切れ端──かれらは「ぼう」(棒)とよぶ──がいくらでもころがっている。



 《べーす》さん一家も、わが家と同様、3人の子持ちである。ただし、あちらは上ふたりが女の子で、いちばん下が男の子だ。



 次女の《コノ》ちゃんはバレエの練習にでかけた。弟の《リョウ》くんは保育園の卒園式。ひとりお店に残った長女の《ナナ》ちゃん──わが家の次男《なな》とは区別してこう書こう──は、わが家の子どもたちの面倒を一手にひきうけてくれた。《みの》は、作業小屋の屋根にかかった梯子に登らせてくれ、《なな》にイヌの頭をなでさせてやり、そして小さな《くんくん》を抱っこして、あやしてくれた。



 これまであまり他人に抱かれたことのなかったのに、《くんくん》は、この日はいたくご機嫌だった。旭川から来たお客さんに抱かれて、「うけ」「き」などと声をあげながら笑顔をふりまき、「いつもこんなふうなんですか?」と驚かれた。《ナナ》ちゃんに抱かれた《くんくん》は、とっても満足して気持ちよかったのだろう、やがてそのまま眠ってしまった。



 入れ替わり立ち替わりお客さんがくる。開業してまだ一年もたたないというのに、雑誌にも紹介されたという。たしかに、この料理ならば、それはうなずける。当麻という場所もいい。旭川市街からほどよい距離で、都会のひとが自然のなかでゆっくりしたい、とおもったときに、すぐに足を向けられる。
     
   
     
 左はココペリの特等席からの眺め。晴れていれば大雪山が見える。ブルーシートは少々無粋だが、これがいずれ本格的なお店兼住宅をこしらえるための基礎。中央写真は、その前にたつ《べーす》さん。左は作業小屋。《みの》は《ナナ》ちゃんに「案内」されて、屋根にかかった梯子を登らせてもらった。
   お昼時の混雑がすぎ、《べーす》さんが厨房からでてきた。ここにいたるまでの経緯を聞く。家族で自然のなかで暮らすために北海道に来た。当麻に地縁があったわけではないから、多くのひとたちに助けられた。お店をもって残念なのは、子どもたちと一緒にすごす時間が十分にとれないことだ。いずれはいまのお店のとなりに、店舗兼自宅をつくりたい。すでに基礎はできているが、上物が建てられるまでにはまだまだ時間がかかりそう──。



 卒園式を終えた《リョウ》くんが帰ってきた。紙でつくった黒いシルクハットをかぶって得意げにしている。話はつきないが、そろそろおいとましなければならない時刻だ。



 《みの》と《なな》は、お土産にそれぞれ太くて立派な枝きれをもらうことにし、CR-Vの荷室に積み込んだ。《べーす》さんたち家族と、手づくりのかわいらしい看板に見送られて出発したのは、1600すぎだった。
     

 

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