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はじっこ散歩記
北海道、与那国島、波照間島、ハワイ島──1995/07-08, 1996/10
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 5──合衆国最南端をめざす

 コナ空港で借りたレンタカーは青いフォード・トーラスだった。わたしにとって初めての左ハンドル車、初めての右側通行だ。それに逆上したのか、走りだして2分後にはさっそく地元のパトカーに停車を命じられた。わたしが国際免許証を示すと、警官は「中国人か?」と言って放免してくれた。フォードには《みの》用にチャイルドシートも装着してある。かれはあと1週間もすれば2歳の誕生日をむかえる。

 5日間滞在したカイルア・コナの町を6日めの朝、あとにした。ハワイ島の西海岸ぞいを南へむかうルート11は、海に落ち込む火山の横腹に特大のナイフで刻みつけたみたいな往復2車線。この島の西と東をむすぶ大幹線だ。太平洋から吹きよせる湿潤な季節風がうんだ鬱蒼とした緑のなかを2時間ほどで抜けると、やがて灌木と草地の荒涼とした景色に変わった。

 道ばたに "South Point" と記された表示板が立っていた。右折すると、とたんに幅員が狭くなった。舗装の状態もわるい。路肩のほうにはアスファルトが敷かれていない。牧場とも、ただの荒れ地ともつかないなかを走る。道は徐々にくだりながら、まっすぐに伸びている。その先には、きらきらと光る海があった。

 ときどき対向車に出会う。わたしがフォードをすこし右へ寄せて手を挙げて合図すると、相手もそれに応えるが、表情は堅い。いくら幅員が狭いとはいえ世田谷の住宅地のそれをおもえば大通りといってもいいほどだが、アメリカ人にしてみれば、あまり経験をしたことのない細道なのかもしれない。じっさい、この道はレンタカー通行不可(保険が適用されない)らしい。

 数十基の巨大な風車 Window Mill が立ち並んでいた。道はそのすぐ横をとおる。くぅわん、くぅわん、くぅわん、と音がする。昔の東宝特撮映画に登場するUFOの回転音のようだ。そこをすぎてしばらく行くと、道は行き止まりになっていた。ピックアップ・トラックが数台停めてある横に、わたしもフォードを停めた。ここから先は岩場になっている。Tシャツを着た地元のひとが釣りをしている。

 灯台まで歩く。白いちいさな灯台だ。岩場と草地の境目に建っている。ここがサウス・ポイント。ハワイ島の最南端にしっぽのように突き出ている。合衆国50州の最南端だ。ふりかえると、山は厚い灰色の雲に覆われていた。しかしわれわれの頭上には雲はなく、日が降り注いでいる。風がつよい。細かな砂が目に入る。記念写真を撮っていたら、また《みの》の帽子がとばされた。あとで写真をみたら、3人とも風で髪がさかだって、千手観音のようだった。

 ルート11までもどった。しばらく行くと「マーク・トゥエインの木」という名前の店があった。樹高15mはあろうかというモンキーポッドの大木の下にしつらえられたポーチで、サンドイッチとコーヒーの昼食をとった。からになったトレイをさげに店にもどると、カウンター脇にパーク・レンジャーの制服に身をつつんだ女性が立ち、サンドイッチを注文していた。わたしはトレイを返しながら、 「サンドイッチ、おいしかったです」 とカウンターのむこうに声をかけた。横からレンジャーの女性がふと気がついたようにして、 「そうよね、おいしいわよね」 と笑った。お店のひとも笑顔でサンキューと言った。

 駐車場へ行くと、ここの家族のひとたちだろう、《みの》と《あ》にむかってなにやら声をかけてくれていた。わたしたちはふたたびフォードに乗り込み、こんどは北東をめざして走りだした。これからマウナ・ロアのボルケーノをへて東海岸の町ヒロまで行く。ヒロ湾の畔のホテルに着くのは夕暮時になるだろう。




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