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散歩旅のもくじ


自然と人工、そしてハレアカラ
マウイ──2000/09

 
1 ──ハレアカラ・ハイウェイ
2 ──山頂からの眺め
3 ──標高10000フィートのチャント
4──女神ペレと英雄マウイ
5──星々にいちばん近い場所
6 ──ハレアカラの両義性
7──自然と文化の「進化」の舞台

     

7自然と文化の「進化」
   の舞台

 

 
     

 

 

   山頂からの下り道は、9合目から6合目付近まで霧につつまれていた。
 車中では、はしゃいでご機嫌になった《みの》が、保育園で読んだ絵本の粗筋をつぎからつぎへとダイジェストして紹介してくれた。それから、おぼえた歌をうたいはじめた。初めはまじめにうたっていたが、そのうち歌詞を適当にアレンジして、替え歌にしてうたった。「キラキラひかる、お空に、行きたいよ、キャハハ」などというぐあいに。《なな》も調子にのって、一緒になってうたった。そうこうしているうちに、やがて二人とも寝てしまった。そろそろ正午をまわる時分だ。
[*]  この演奏は、"Hawaiian Slack Key Guitar Masters" (Dancing Cat Records, 1995) というCDで聴くことができる。プロデュースはジョージ・ウインストン。  

 カーラジオを 93.5MHz (KPOA) にあわせると、Cyril Pahinui のスラック・キー・ギターの名演奏 "Panini Pua Kea" がかかっていた [*]。

[**]  ついでにいえば、このあとラハイナへ向かう途中、このラジオ・チャンネルで始まったのは、聖書は進化論に矛盾しないことを訴えるという(!) 宗教番組だった。科学的知見に不安をいだいて番組に電話をしてくる信者にたいして、カマサミ・コングばりのノリのDJが「ダイジョーブ、世界をデザインしたのはただひとり、イエス・キリストをおいてほかにいないのです!」と力強く諭すのである。  

 スラック・キー・ギター(Ki ho'alu)はハワイ独特の楽器であり、近年になってようやく世界的にその存在が知られるようになった。独特といっても、スティール・ギターのように独自の形状をもつわけではない。名前のとおり数本の弦をやたらに緩くチューニングしたごく普通のギターをつかって、独特の奏法で独特のトーンの曲を弾く。1830年代にスペインやメキシコからもちこまれたギターを、ハワイ人たちがみずからの音楽文化にあわせて変えていくなかで生みだされたものだ [**]。

[***]  ハワイのトウフ=豆腐はしっかりと固くて、チャンプルーにとてもよくあう。沖縄出身の移民のひとたちと関係があるのかもしれない、と想像しているのだが。  

 同じような例はここにはいっぱいある。有名なのはアロハシャツだ。日本の着物がオリジナルというのは、どうも俗説らしい。西部開拓時代の "Thousand Mile Shirt" がハワイへわたり、それがプランテーション労働者としてやってきた中国や日本の移民たちのあいだで労働着として着られるうちに生まれたのが、現在のアロハシャツの原型だという(ムームーも同じ)。テリヤキ・プレートもマキズシ(太巻き)も町の食堂の定番メニューだし、スーパーマーケットへ行けばポキ(ハワイ風刺身)もトウフもキムチもあたりまえに売っている [***]。サーフィンやウインドサーフィンもそう。おもしろいのは、そのいずれもが「文化の融合」というようないわば大文字の現象ではなく、日常の「些末な」事柄だったり、遊びだったりする点だろう。

 

 ハワイ諸島をパックツアーで行く観光地と即断するのがいかに皮相的な見方かは、たとえば池澤夏樹『ハワイイ紀行』を一読するだけでよくわかるはずだ。ダーウィンの偉大な先例をもちだすまでもなく、島嶼が一般に生物進化を観察するのにふさわしい場所であることは広く知られている。同時に文化人類学的にいうならば、マリノフスキーの例を引きあいにだすまでもなく、島嶼は文化的な変容を観察する恰好の舞台だ。そしてそれは、たんに歴史的にそうだというだけでなく、アクチュアルなものとして、いまこの瞬間でも進行中のものとして捉えられなくてはならない。とりわけハワイ諸島は、それが顕著なかたちで現れている場所のひとつだろう。
 佐倉統は『わたしたちはどこから来て、どこへ行くのか? ──科学が語る人間の意味』(ブロンズ新社、2000年)のなかで、遺伝子とミーム(文化遺伝子)の共進化を探るべきだと説いているが、そのためのヒントは案外こんなところに隠されているのではないか、とわたしは考えている。

 ちょうど女神ペレのハワイ創世神話が、この諸島の地学的な成立と重なりあうように。  

 

──終わり

 


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