チェルノブイリを見にゆく話その21。前回その20はこちら。
冷却塔をあとにして、ミニバスは構内奥へむかった。
左手に、事故をおこした4号炉の金属屋根が見える場所まで来た。ここでまた停車。車外へでて歩く。
右手には鉄道橋があった。川のように見える人造湖を横切って架かっていた。G氏につれられて、ぼくたちは鉄道橋のまんなかまで歩いた。2本の線路のまんなかに板がわたしてある。それと直行して枕木がならんでいる。底が抜けて川面が見えるかといえば、そうではなく、路盤の下もびっしり板敷きであった。
ぼくたちは渡り板の上をなんなく歩いた。Mだけは、足がすくんで歩きにくいとこぼして、恐る恐る歩く。昨日の屋上にかかったはしごのときとおなじで、下が抜けているところは怖いらしい。そのわりには歩けている。ほんとうに怖いのともちがうのではないか。
橋の上から人造湖をながめる。まるまると太った魚がたくさんいた。天敵不在で、魚にとっては天国みたいなもんだ、とG氏が言う。
魚たちの天敵はナマズなのだが、ここの水も原発事故で汚染されたため、人造湖の外との水の往来を遮断した。するとナマズもやってこなくなったのだそうだ。
近くにビーバーの巣もあった。原発事故によって通常の人間の活動が見られなくなったこの地では、少なくとも表面上は、自然化ないし野生化がすすんでいるのは確からしい。
停車したミニバスの脇に彫像がたっていた。プロメテウスの像だという。プリピャチにも、おなじような像があったようにおもう。プロメテウスは、旧ソ連時代には原発の象徴だったらしい。
G氏いわく、4号炉方面の写真を撮るのなら、プロメテウスの像の背後に撮しこむか、そのフリをして撮影するのがよいとのこと。原発の写真をおおっぴらに撮るのは望ましくないんだよ、と言う。事実なのか観光客の気分を盛りあげるためのトークなのか、それはわからない。
その22へつづく。