えんえんとジオラマ群がつづく
斜面に向かって左手には、えんえんとジオラマがつづいている。そのうち、いちばん手間(奥)にあるジオラマの全景が、これだ。
伝説か神話かなにかの場面が、かなり精巧につくられている。
下の写真は、殺された趙公明という武将の三人の妹たち(三仙姑)が、復讐をはたすためにたたかっている場面、らしい。
こちらは、老子が魔法の白い馬(牛かも?)に乗って援軍にやってきたという場面。老子がそういうキャラだったとは知らなかった。
このジオラマのフィギュアたちは、ごらんのとおり、ややシリアスめなタッチである。園内のほかの大多数のフィギュアが、むしろマンガチックなテイストなのとは、明らかに一線を画している。
絵巻物としてのジオラマ
こうしたジオラマ群が描いているのは、中国の伝統的な説話である。ひとつの物語を扱うコーナーは、マンガでいうコマ割のように、さらにいくつかの場面にわかれ、そのひとつひとつに異なる場面が描かれている。しかし、それらは相互に明確には区切られておらず、ゆるやかにつながっている。ちょうど日本の中世の絵巻物みたいな描かれ方であり、その立体版みたいなつくりだといえる。
上はその一例である。「美徳と悪徳」というような題名がつけられたジオラマで、おおむね4-5つの場面からできている。
上段の二つは「悪徳」のほう。左が戦前の上海で、右が香港。どちらも歌い踊るひとびとの姿が描かれている。カネを手にした者たちが享楽にふけるさまを描いているものらしい。
歌をうたっているおねえさんの右隣にいる老人の、いかにもウキウキしたポーズが、なかなかすてきである。
どことなく『上海バンスキング』の場面を彷彿とさせなくもない。
美徳と悪徳
いっぽう下段には、物乞いをしたり他人にたかったりするひとの姿が見える。
そして、かれらが、哀れにも警官たちに取り押さえられてしまうようすも描かれている。悪徳はけっきょく破滅する運命なのだと戒めているのだという。
そのあたりを、解説板はどのように説明しているのか。一部を引用してみよう。なお、やや不自然な日本語なのは、解説板の日本語説明文からそのまま引用したためだ。
ここで例証される美徳は、勤勉さの重要性、窃盗ではなく倹約すること、寛容さ、善悪を知ること、子としての従順、宗教への畏敬の念、忠誠、謙遜、友情の価値です。
怠惰、賭博、麻薬の使用のような悪徳は回避されるべきです。また、中国人は悪徳に対しては、天罰が下ると信じています。
これらの教訓は、人生の歩みとすべての社会において常に適切で有用です。
悪徳を戒め、美徳を奨励する。それがこのジオラマの「趣旨」である。「建前」と言いかえてもよい。
実際には、フィギュアとして見るとあきらかに、悪徳系のひとたちのほうが魅力的な表情をしている。下の写真は、また別のジオラマから、麻薬と賭博にふける悪徳者たちのようす。
悪徳者のほうこそが、ある種とても人間的であるというのは、現実の、生身の人間であっても同じかもしれない。