チェルノブイリを見にゆく話その13。前回その12はこちら。
各所に体育施設が設置されていたのは、いかにも旧ソ連の人工都市らしかった。その種の建物のなかには、体育館のほかに、プールを併設するものがあった。何か所かでプールを見たが、最後に見たプールは、とびきり大規模だった。
プール内には、もちろん水はない。だから底の形状がはっきり見える。片側が深く掘られていて、プールサイドには飛び込み台が備え付けられていた。かなり本格的な飛び込み台のように見えた。
そのプールの、飛び込み台とは反対側の端に、茶色いもこもこしたものがあった。大型犬だった。
床は一面ガラスの破片が散らばっている。犬はその上にまるくなっていた。ここに棲みついているらしい。
事故後のプリピャチの全村避難のさい、ペットは放棄するようにいわれたという。ドラマ『チェルノブイリ』でも、残されたペットを兵士が射殺する場面が描かれていた。それでも生き残ったものもいたようで、この犬はその子孫なのだろう。
犬はおとなしく、人慣れしている。座り込んだまま、お利口にこちらをながめる。首筋をなでてやると、うれしそうだった。
プールから出て、元小学校だったという建物内を歩く。ふと気がつくと、犬がぼくたちのあとをついてくる。さっきの犬らしい。ぼくたちが立ち止まると、犬も止まる。吠えたりはしない。きちんとしゃがんで、うれしそうにぼくたちの顔を見つめる。
犬はけっきょく、ぼくたちのあとをえんえんとついて歩いた。小学校の建物をでて、外を歩いていても、やはりついてくる。どこまでも、ついてくる。
けっきょく、旧レーニン通りまで戻ってきた。そしてガイドのG氏から、食べ残しのお菓子をもらうと、うれしそうにたべた。それで満足したのか、たべ終わると姿を消した。
おもうに、犬はきっと毎度そのようにしてたべものをもらって暮らしているのだろう。
その14へつづく。