ハウパーヴィラを見にゆく 10——仏陀、魚男、白熊、そして三蔵法師

道徳的な内容のジオラマはまだつづく。

ハウパーヴィラを見にゆく 9——絵巻物としてのジオラマ
シンガポールの怪しい仏教テーマパーク、ハウパーヴィラのフィギュアを詳しく紹介するシリーズの9回目。絵巻物みたいなジオラマをとおして、古い説話やいかにも通俗的な道徳観が描かれる。
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仏陀と魚男と白い熊

これは、仏陀がわざと汚い恰好をして人びとの前にあらわれて奇跡をおこしてみせた、というお話の場面だという。聖書にも同じような話があったのではなかったか。

まるで周りのひとを試すような仕方であり、あまり人間としてよい行いとはおもえないのだが、このとき仏陀はもう人間ではなかったのだっけ。

これはなんのお話かわからないが、ともかく魚の着ぐるみ(?)を着たおじさんがあらわれて、猪(?)と一緒にカニを捕獲しているらしき場面である。村上春樹の羊男ならぬ「魚男」であるが、何者かは不明。

これも教訓的なお話。二人づれの少年が白熊に襲われた。ひとりは木に登って逃げた。もうひとりは逃げ遅れてしまい、やむをえず死んだふりをした。白熊はそのまわりをうろうろしたのち姿を消した。

白熊が去ったのち、木の上に逃げていた少年が降りてきて、死んだふりをしていた友人に訊いた。白熊はどうして行ってしまったんだろう? 

すると死んだふりをしていた少年は悲しそうに言った。熊に襲われたとき、友人を置き去りにしてじぶんだけ逃げるやつは友なんかじゃないよ。そう白熊は言い置いて去っていったのだ、と。

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西遊記

一段下へさがったところにも大量のジオラマが配置されている。そのなかに、西遊記を描いた一連のジオラマがあった。まず、孫悟空。

猪八戒。こういう恰好をしていたフィギュアをよく目にしたが、中華的決めポーズ、なのだろうか。

三蔵法師。毒婦にたぶらかされそうになっている場面である。女性は鬼門、というのがハウパーヴィラのジオラマに通底するリアリズムのようにもおもわれる。ジェンダー・スタディーズ的にはかなり問題があるのかもしれないのだが。

頭にナイフが刺さったひと。血しぶきまで表現されている。

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孔子と笑うブッダ

こちらは孔子だという。たしかに「仁」と記されている。しかしこの外見だと、武将と区別がつけられない。

こちらは「笑うブッダ」だという。日本流にいう布袋さまのことらしい。

わざわざ「笑う」が強調されているところから推察するに、ふつう仏陀は笑ったりしないと考えられているのだろう。

そういえば、さまざまな宗教の神や預言者たちは、あんまり感情を表にだしたりしないように描かれているような気がする。逆にいえば、「笑う」のはとても人間的な行為ということでもあるだろう。

そして、ここにもこんなフィギュアが。

エロティックなのかコミカルなのか、よくわからない。ともかく、ハウパーヴィラを歩いていると、ときどきこの手のフィギュアに遭遇する。

その11へつづく