世界でもっとも過酷な道のひとつ、ダルトン・ハイウェイを走破する旅その12。北極圏到達の記念碑をすぎ、北極圏に突入した。ぬかるみの路面を走りながら、中間地点であるコールドフットをめざす。
ポンプ・ステーション5からコールドフットまで
ポンプ・ステーション5を見下ろすことのできる丘の位置をグーグルマップ上で確認する。ここまで来ると、コールドフットはそう遠くないことがわかった。
ここからしばらくは、路面も舗装路がつづいて走りやすい。同じような写真ばかりがつづくじゃないかと苦情を言いたくなる読者もいるかもしれないが、じっさい同じような風景がつづくので、仕方がない。むしろ、この単調さこそがアラスカらしさなのだと理解していただきたい。
坂をくだり、また登る。さっき丘上の展望台から見えたポンプ・ステーション5を右手に見ながら、そこを通り過ぎる。
コールドフットに到着
ながらくフラットな地形がつづいていたが、このあたりから、正面に山なみが見え、それが少しずつ近づいてきた。あれだけ青くひろがっていた空は、いつのまにか雲に覆われてしまっていた。
コールドフットの飛行場(小型用の滑走路が一本だけ)が見えてきた。だが、街らしきものは見当たらない。グーグルマップには情報としては載っているはずなのに、なぜか存在するはずの給油所・レストランなどを案内してくれない。
困ったなとおもいながら走ってゆくと、林の陰からつぎつぎとトラックがあらわれた。たぶん、そちらだ。そう見当をつけたところ、その角に看板がたてられているのに気がついた。まちがいない。だ
トラックのやってきた道を逆に入ってみた。針葉樹の林のなかを少し抜けると、急に広いところへでた。
開拓時代の西部の街のよう
そこには、がらんとした埃っぽい広場があった。
隅のほうに給油機がぽつんと置かれている。バラック小屋のような郵便局と、西部劇に出てくる酒場のようなレストランが建っている。広大な未舗装の広場のあちこちに巨大なトラックが駐車していた。なんだか開拓時代の西部の村そのものといった趣だった。ひろくてひらぺったいので、写真に撮ろうにも、まるっきり構図にならない。
コールドフット (Coldfoot) は、ダルトン・ハイウェイの中間地点である。北に向かうばあい、この先は終点のプルドーベイまで、店や人家はおろか給油ステーションさえ存在しない。だから、ダルトン・ハイウェイを往来するほとんどすべてのひとが、必ず立ち寄る場所となっている。
なにはともあれ、まずは給油だ。
ちょうど給油をしている最中だったおばさんに訊くと、ユーコン・リバー・キャンプのときと同様、やはり先にクレジットカードをあずける方式だという。それでレストランへ入り、受付までいった。
青トレーナーの女の子
そこには青いトレーナーを着たヒスパニック系らしき女の子がいて、レジ係をしていた。彼女はちょうど、白人おばさん客の相手をしているところだった。
おばさんはペットボトルの水について何か苦情を申し立てているようなのだが、はっきりどうしてほしいと口にせず、もってまわった言い方をしていた。
女の子は、べつに怒るふうでもなく、かといって卑屈な愛想笑いを浮かべるでもなく、淡々かつ堂々と、水ならそのあたりの蛇口からいくらでもでるから、そっちで汲んでみてはどう? といった。
おばさんが退散し、ぼくの番になった。アメリカでいつもそうしているように、微笑みつつ挨拶してから、給油したい旨を告げた。
青トレーナーの女の子が「番号は?」と訊く。ポンプの番号のことだ。
「何番かはわからないけど、いちばん手前の……」といいかけ、手前って英語でなんといえばいいのか一瞬わからなくなり、もごもごと口ごもった。
すかさず女の子が「closest ね」と助け舟をだしてくれた。頭の回転の速いひとだ。
往路さいごの給油ポイント
給油機のところへ戻り、ノズルを挿し込んでいざ給油しようとしたら、ガソリンが来ない。
再度レストランの受付へ訊きにゆく。ぼくの話を聞いた青トレーナーの女の子はすかさず、「アクティベートはしたわよ、レバーをさげた?」と問いかえした。ああ、そうだったと、ユーコン・リバー・キャンプで教えられたことを思い出した。
彼女に礼をいって給油所へ戻り、試してみたら、給油機はちゃんと動いた。
コールドフットまで、フェアバンクスからメーター読みで290.2マイル(467km)。前回の給油ポイントであるユーコン・リバー・キャンプからまだ150マイルほど(約240km)しか走っていないため、給油量はさほどでもない。といっても、ユーコンXLはその巨体と車重ゆえ基本的に燃費の悪いクルマである。7-8ガロンは入っただろう。ミシガンでの愛車ホンダ・フィットとくらべると、燃費は半分にもおよばない。
往路の給油はこれで最後。この先は終点プルドーベイまで無給油で走り抜けなければならない。
その13へつづく。