世界でもっとも過酷な道のひとつ、ダルトン・ハイウェイを走破する旅その15。中間地点のコールドフットを出発した。この先は終点のプルドーベイまで補給地点はない。巨大な大理石の岩山、スカクパク山の特異な山容を眺めたあと、ルートはブルックス山脈の深奥へと分け入ってゆく。
さらにしばらく舗装路がつづく
フロントガラスに雨粒が落ちてきた。しかし、路面が黒く染まるほどにはならない。
ダルトン・ハイウェイは谷を詰めてゆく。両側には山が迫っている。いずれも緩やかに波打つような山容である。こういうのを氷河地形というのか、周氷河地形というのか、ぼくにはよくわからない。
ちいさな峠をいくつも越えてゆく。アップダウンをくりかえしながら、道路は徐々に勾配をあげてゆく。さいわい舗装区間がつづくので、それなりのペースで走ることができる。
そうおもったとたん、舗装区間は終わり、またダートとなった。
路肩の小動物たち
左手には川が流れている。流れは、北に向かっているぼくから見て後方、すなわち南(フェアバンクス方面)へ向かっている。
路肩にはウサギがたくさん姿を見せていた。アナーバーの庭先でたまに見かけるのよりも、まだちいさい。日本のわが家にいる愛猫てんてんくらいの、かなり小ぶりのウサギだった(あいにく写真はない)。
夕食どきなのか、しきりになにか地面をつつている。クルマが来たとみるや、たちまち草むらへ逃げ込んだ。
一度だけ、オコジョのようなちいさな動物が、路肩に後ろ足だけで立っている姿が目に入った。ユーコンXLの巨体が高速で通り過ぎるというのに、その小動物は逃げもせず、それどころか、ずっと同じ姿勢のまま立っていた。あれ、たしかに動物だったよな?
大自然が教える現実
途中なんどかユーコンXLを停めて写真を撮った。まわりにはクルマもひともいない。清廉な風景があり、そこに埋もれるようにしてダルトン・ハイウェイのダートが走っている。風は冷たい。
だが、アラスカの大自然が誘うロマンティシズムに気持ちが奪われそうになる間もなく、さっそくハエや蚊が寄ってくる。ぼくの体温や、吐き出す二酸化炭素を察知したのだ。「自然」とはとことん「現実」であるということを、その事実が教えてくれているような気がした。
そうしてまたユーコンXLで山を登ってゆく。しばらくすると正面に、ブルックス山脈の核心部が見えてきた。いよいよこの先、峠越えとなる。
その16へつづく。