ピレネーを越えて──ベンヤミン・ルートを歩く 3

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葡萄畑を抜けて

庭先のようなところを抜けて、街の外へでる。すぐに廃道化した林道と交差する。その先は葡萄畑だ。上半身裸でジョギングをしているおじいさんとすれ違う。ボンジュールと挨拶された。よく晴れて、暑かった。

少し先で左に分かれる白い舗装の道にはいる。分岐には立て札があり、Walter Benjaminとだけ記されていた。

舗装はすぐに途切れ、あとは林道歩きとなる。高度を上げてゆく。あたりの丘という丘は、一面の葡萄畑だ。さっきとおってきたデルマスの街が眼下に見えた。

ベンヤミンの休んだ尾根の台地

尾根に出た。台地のようにフラットな地形である。ベンヤミンたち一行は、前日に下見に「草原」まで来ている。そして、ベンヤミンは疲労のため街へは戻らず(戻れず)、そこにとどまり、野に横臥して、一夜を過ごしたという。それはこのあたりであったのではないだろうか。

まっすぐの道を歩いてゆく。両側はもちろん葡萄畑。こんな葡萄がなっている。

正面の奥にはピレネーの稜線がそびえている。標高700mくらいなのだが、高く見える。右手にもピレネーの山々が見える。あちらはもっと大きく、高く、険しい。

林道から山道へ入る

その先からは林道を離れ、斜面を登る山道となる。とはいえ葡萄畑のなかを歩いていくことには変わりはない。傾斜地にもていねいに石を積んで土留めがつくってある。ピレネーは石の山らしく、平たくて尖った石だらけだ。それらを上手に活かしている。

葡萄畑用の排水溝のような立派な石畳と交差した。その先は道が急に荒れている。ちょっとすすんでみたが、直感的にこの道はちがうだろうという気がした。

立ち止まって、ふりかえる。ここまで、0940にバニュルスの駅を歩き始めてから、だいたい一時間である。バニュルスの街と海が見えた。特徴的な、海岸道路の橋脚部が視認できる。海にはレジャーボートの白い航跡。ずいぶん遠くまで来たものだ。

そこで少し戻って右に折れて少し登ってみる。はたして、上のほうに舗装路が見えた。

そこを登って舗装路にでた。もう一度あらためてふりかえり、バニュルスの街をながめる。

この舗装路を、山の方に向かって歩いてゆく。

左手は谷。谷の底まですっかり葡萄畑になっている。作業のひとたちの車が駐まっている。

やがて舗装路は二股に分かれる。だが、そのどちらにもいかず、中央から伸びる山道に入る。この入口に、ベンヤミンの脱出経路を示した案内板が立っている。3と番号が記されていたが、1と2はここまでは見当たらなかった。

尾根の山道

このあたりから本格的に、ピレネーへつづく尾根にとりつく。三たびふりかえって、バニュルスの街をながめる。さらに遠くになった。手前の丘の中腹に、さっきまで歩いていた舗装路が見える。

しばらく山道を歩くと、また林道に出た。ケルンが積んであったので、それにしたがい、右へ。途中の分岐のほうが眺めがよさそうに思われたので、ルートを逸れてちょっとだけ入ってみた。が、期待したほどでもなかった。あとで確認すると、参考にしたひとのトラックデータ(事前調査のさいにネットで見つけたもの)でもまったく同じことをしていた。

その先で、また右に入って山道を歩く。

岩に “WB” とだけ記された道標。

谷の向こうにピレネーの稜線が見える。だいぶ近づいてきた。

さらに歩くと、鉄塔に出くわした。ピレネーのごつごつした峻険な山容が眼前に迫ってくる。あれを越えていかねばならないのか。

鉄塔のところまでやってくる。基礎の上に、ケルンが積んであった。

下界はよく晴れていたが、ピレネー上空には少し雲が出始めていた。ゆっくりしている余裕はなさそうだ。

鉄塔をすぎると、国境手前の最後の林道までが急登である。この区間の登りは、さすがにきつかった。ようやく林道に出たときは、正直ほっとした。

しかしこの先は、もっとしんどかった。

その4へつづく