今冬初めて雪が積もった日の朝、借りていた青いヴィッツで帯広を出発した。雪降るなか十勝川沿いにひたすら走る。そうして河口の街、大津へ到着した。
大津の集落を抜ける
T字路を左に折れる。標識には「大津市街」と記されていた。といっても、「市街」という言葉をつかうには、ずいぶんとささやかな街並みだ。
神社がある。あたりに人影はほとんどなく、あっても雪かきをするおじさんくらいなものである。
集落をゆっくりと走ると、たちまち東のはずれに達してしまった。そこには雪をかぶった土手が立ちふさがっていた。この土手の向こう側には十勝川が流れている。河口は、もう目と鼻の先だ。河口を眺めてみたかったが、クルマで入り込めそうな道が見つからない。歩かなければ無理そうだった。
風雪の大津海岸
ちいさな大津の集落をぐるりと一周して戻ってきた。さっきの神社の近くに「ジュエリーアイス」という看板がたっていた。グーグルマップにも載っている。
ジュエリーアイス(宝石氷)?
最初にみたときは、名物のアイスクリーム屋だとばかり思い込んでいたが、そうではない。冬場、とくに1月2月の極寒期に、十勝川河口の水がシャーベット状に凍って大津海岸に打ち寄せる。そのようすをさして、こう呼んでいるらしい。前に北海道へよく来ていたころにはまったく聞いた覚えがない。それもそうで、近年、内地の写真家が撮った写真で有名になったのだそうで、地元自治体である豊頃町でも冬場の観光資源としてアピールに余念がないということらしかった。
「ジュエリーアイス」の看板のある細い道に入ってみる。クルマが一台とおることができるほどの幅員しかない。ちいさな橋を越えると防潮堤の外側、つまり海岸へと出た。海岸は雪をかぶって一面の雪野原となっており、その奥に海が見えた。
とりあえず、橋をすぎて少し広くなったところへヴィッツを停めた。念のため、クルマの向きを帰るときにそのまま発進すればいいように転回させておいた。
外へでてみる。積雪量は数センチで、靴が軽く埋まるくらいだった。昨晩から降りはじめたばかりなので、まだ軽い。
歩いて浜辺までいってみた。遮るものはなにもない。流木か何かで三角錐に組まれた櫓が、寒風のなか立ち尽くしていた。
人影はない。この寒いときに浜辺までのこのこ来るようなひとはいないだろう。風が吹いているが、巻いているので、南からなのか北からなのか、風向はよくわからなかった。
ヴィッツへ戻る。そこへ、小降りのパワーシャベルのような形をした除雪車がやってきた。浜辺を除雪する理由はないだろうから、おそらくは雪を捨てに来たか、雪捨て場所への通路を確保するためにやってきたのだろうとおもわれた。何度かいったりきたいする。そのつど運転席のおじさんがこちらをちらりと見やる。なにしてんだ、こんなところで、とでも言いたげな表情である。
十勝発祥の地
カーナビで晩成温泉をセットして走り出す。40分ほどらしい。さっきのT字路のところまで戻る。
そこには「十勝発祥の地」という石碑が建っていた。
十勝発祥の地とは、当初ここに入植者たちが上陸し、物資の上陸、出荷の中心地だったということのようだった。たしかに十勝沿岸部ではこの河口あたりが上陸しやすい地形である。陸揚げ後の物資を、さらに陸路や舟運で運搬するにも好適な場所だったとおもわれる。
ナウマン国道を、西へ
道道911を戻り、R336を左折する。
R336は通称ナウマン国道。十勝の沿岸部から少し入ったあたりを通っている。交通量はほとんどない。
路面は真っ白だ。朝のうちに除雪が入ったようで、圧雪路である。沿道には民家もほとんどない。降りしきる雪は、心なしか烈しくなってきた。
ただただ茫洋とした雪原のなかをひたすら走る。
道道881へ入る。ここから先、除雪は夜間は行わない旨の但し書きが表示されていた。
まもなく太平洋へつづく直線路にでた。
つきあたりのT字路まで到達した。この先は太平洋。そして、右に折れれば、晩成温泉だ。
その3へつづく。