初積雪の十勝をレンタカーで走る旅その9。前回は、晩成温泉から帯広空港へ戻り、ターミナルの六花亭に立ち寄った。そして、マルセイバターサンドの由来となった、明治期に十勝開拓を志した晩成社の歴史をふりかえった。

さて、空港に話を戻そう。
「天候調査中」のアナウンス
マルセイバターサンドを買って待合室へ戻ると放送が入った。


ぼくが乗るはずの1355発の羽田行きは、その前に羽田からやってくる1305到着の便が折り返す。ところが、積雪のため、その到着便が着陸できるかどうか天候調査中だという。
窓から外を見ると、雪の降りは前より烈しくなり、しんしんと降り積もっている。風はないのだが、降雪量が多い。遠くの滑走路でランプを付けた除雪車数両がせっせと除雪作業をしているのが、かすんで見えた。もし天候調査の結果羽田へ引き返すとなると、欠航になる可能性もあるのだとアナウンスがいう。
やあ、困ったな。すると、保安検査場の係員があらわれて、これから羽田行きの保安検査を始めるという。まるでいまのアナウンスなど一切耳に入らなかったみたいだった。それでぼくは一番のりで検査して制限区域へ入り、ゲートへ向かった。
といっても、ちいさな空港なので、入って右手がすぐにゲートだった。


ゲートには、ただ「出発準備中」という札がかけられていただけ。ディスプレイも定刻1355を示している。ふだんどおりだった。
飛行機は来るのか
しばらくすると、またアナウンスが入った。着陸の可否は1320ごろ決まるという。ほかの乗客たちがやってきて待合室のベンチに座る。誰にもどうしようもない。


いくつもバッグをかかえたひとが、警備員らしきひとと話している。朝イチの釧路発羽田行きが欠航となり、代替便に乗るために帯広まで来たというような話らしかった。
ネットで確認すると、北海道方面はどの空港も同じような積雪状況らしかった。いずれの便も、天候調査の結果引き返すかもしれないことを条件に羽田を出発している。


窓から空港のようすをながめるともなくながめる。心なしか、雪はさっきよりいっそう烈しく降りだしたように見えた。何人かのひとが、そのようすを見やるともなくながめていた。
飛行機到着
突然ボーディングブリッジがぐぅぅと動きだした。それが着陸の可否のどちらを意味しているのかはわからなかった。
またアナウンスが入った。おそらくは1340ごろのことだ。「みなさまの搭乗される飛行機はすでに帯広空港に到着しました」。


窓から見ていると、まもなくして、雪煙の向こうからB737が地上をタキシングしてくるのが見えた。この雪でも着陸するのだから、飛行機はえらいものである。やれやれ一安心、とおもったのは、早計だった。
搭乗開始遅延
機材の到着が遅れたため、出発時刻も遅延し、1420とアナウンスされた。その間、搭乗客はまた待合室で待機する。


ガラスのパーテーションの向こうを、到着便の乗客が降りてゆく。引き返すかもしれないという条件で出発し、十勝上空で30分も天候待ちを強いられたためか、みな表情がつかれているように見えた。
ようやく搭乗開始
何度めかのアナウンスが入り、1415から搭乗開始となった。


ゲートを抜け、ボーディングブリッジの窓から、搭乗する機材のようすを眺めた。出発準備と併行して、機体に付着した雪を除去する作業をしていた。


『スター・ウォーズ』で帝国軍がつかっている二足歩行ロボットのような放水車がでて、主翼上に積もった雪を溶かしていた。


座席に着く。窓からのぞくと、直下で地上作業員が出発準備をしている姿が見えた。


雪は作業員たちの膝下くらいまで積もっている。作業は難儀しているように見えた。
それにしても、こんなに雪が積もっていて、飛行機は動くことができるのだろうか。
放水中に突然……
隣のゲートに駐機したエアドゥ機のまわりでも、別の二足歩行ロボット式の放水車がでて、せっせと機体に水をかけていた。


こういう作業用のクルマや人員はすべて、航空会社ごとに配置されているようである。すべての就航先でこれら機材・人員を配置し、毎回きちんと運用しなければならないのだから、航空会社の仕事というのは複雑であろう。
そうこうするうち、また二足歩行ロボット式放水車が近づいてきた。さっきまで、ぼくの搭乗する機の左舷側で水を吹いていたやつだ。こんどは右主翼上の雪を溶かしにやってきたのだ。


二足歩行ロボット式放水車が右主翼上の雪を溶かすべく、プシューといきおいよく水を吹きつけた。機内には、ズゴォォというマンガの擬音そのままのような音が響いた。
するとそのとき、バチンと音がして、機内の照明が消えた。
その10につづく。

