帰国便欠航とその顛末——晩秋のリトアニア駆け足旅 19 最終回

カウナスから直接ヴィリニュス空港へ向かうバスに揺られて90分ほど。バスはぶじに空港に到着した。あとは予定の帰国便を乗り継いで帰るだけ——と、そのときはおもっていた。

カウナスからヴィリニュス空港行きバスに乗る——晩秋のリトアニア駆け足旅 18
晩秋のリトアニア駆け足旅その18。カウナスでの滞在を終えて、帰国の途につく。まずはカウナスからヴィリニュス空港へ直行するバスだ。バスを予約したのはいいが、指定された乗り場は街はずれのコンビニ前だった。
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Googleから欠航の通知が届く

ヴィリニュス空港はこじんまりした空港だ。出発ロビーに入ってすぐ右手に、LOTポーランド航空のカウンターがあった。ぼくの乗る便までまだ二時間以上ある。まだ手続きは始まっていなかった。それでも数名が列を作って待っていた。そのなかに、往路便で一緒だった韓国人留学生の姿が見えたので、挨拶をした。帰国便も同じルートで、やはりワルシャワまで行ってから成田行きに乗り継ぐのだという。

ぼくはすでに昨夜の時点でオンライン・チェックインを済ませており、電子搭乗券を入手してiPhoneのWalletに登録済みだった。そこで、一足お先に、といって別れ、ひとりで保安検査場へ向かった。パスポート、搭乗券、手荷物のチェックを受けて制限区域に入る。

そのとき、iPhoneに通知が届いた。Googleからの通知だった。LO79欠航、とある。搭乗予定のワルシャワ発成田行きのことだった。まじか。

なお、Googleにぼくが事前に何か設定したりしていたわけではない。自動で通知してくれたのだ。便利すぎである。もしGoogleからの通知がなければ、何も知らないまま暢気にしていたにちがいない。しかしこんな芸当は、ふつうは不可能だ。ふだんからGoogleがGmailなどの内容を勝手に読み、位置情報でぼくの現在位置を逐一把握しているからこそ可能になる芸当である。便利すぎる反面、もはや個人情報もへったくれもないような状況だともいえる。

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LOTポーランド航空の事務所へ

さて、欠航である。どうしたものだろうか。

そのとき、ぼくはすでに保安検査場を抜けて制限区域内に入ってしまっていた。もうLOTポーランド航空のカウンターへ戻ることはできない。順当に考えれば、このままおとなしく、予定どおりヴィリニュスからワルシャワまでの便に乗り、ワルシャワ到着後に代替便の手配をしてもらう、ということになるだろう。

ただ、それだと、代替便の手配ができるのは何時間も先になってしまう。欠航時の代替便の確保は早い者勝ち、というのが鉄則である。そのことを考えると、できることなら少しでも早く手配したい。下手したら明日以降の便にされてしまう怖れもあった。それに、ワルシャワには、同じように今日の成田行きに搭乗予定のひとたちが大量に集まっているだろうから、対応の順番を待っているだけでも、さらに余計な時間がかかりそうだ。

欠航時の代替便手配は、できるだけ速やかにおこなうのが吉。空席確保は早い者勝ち。これ、鉄則です。

そこで、ダメ元で、まずはここヴィリニュスで相談してみることにした。ラウンジの受付にいた女性職員に事情を説明した。そのひとは、ぼくの話を表情ひとつ変えないで聞き終えると、「LOTポーランド航空の事務所に訊いてみるわ」といって、電話をかけはじめた。

その間、彼女はまったく笑顔を見せなかった(リトアニアではめずらしくない)。それで、もしかするとぼくの説明の英語が不十分だったかもしれないという気がしたので、少し補足しようと口をひらきかけた。すると、彼女は受話器を耳にあてたまま、左の手のひらをぼくに向かってひろげてみせた。まあ、静かにしてなさい、ということのようだった。

しばらく電話でやりとりをしていた。リトアニア語だったので、ぼくにはその内容は理解できなかった。そして、受話器を置くと、受付の女性が言った。

「LOTの事務所で対応するといっている。ヘルシンキ経由で帰国できるでしょう。戻りなさい」

戻るって、保安検査場を逆に抜けて戻るってこと? おどろいたぼくがそう訊くと、そうだという。そんなこと、できるのか。

とはいえ、どのみちダメ元なのだ、試してみることにした。キャリーを牽いて再び保安検査場へ行き、係の男性職員に事情を説明した。大柄な黒人のその職員は、なんだかよくわからねえ話だな、という表情だったが、黙ったまま、金属探知機のゲートを逆にくぐって行け、という身振りをした。

こうして、ともかく再び制限区域の外へ戻った。

LOTのカウンターへゆく。係員は別のお客さんの対応をしていたが、ぼくが列のうしろに並んで立っていると、身を乗り出すようにしてこちらを見て「東京便のひと?」と訊いてくれた。そうだとうなづくと、コンコース中央のカウンターへ行きなさいという。そこには円形のカウンターがあり、Informationと看板がでていた。

円形の案内カウンターへいった。そこにひとりで坐っていた係のおばさんに声をかけ、事情を説明しかけた。すると突然、おばさんが怒鳴りはじめた。「ここはポーランド航空の事務所じゃない!」。LOTのカウンターのひとにここで訊くようにと言われたのだとぼくが反論しかけると、おばさんはさらに大きな声をだして「ここじゃない。二階よ! 二階へ行きなさい!」とまた叫んだ。なんなんだ、このひと。

ただ、おばさんの指さす先の二階を冷静に見やると、たしかにLOTポーランド航空の看板がでていた。それ以上おばさんと話をつづけても埒があく見込みは皆無だったので、階段をのぼり、看板のでている事務所へ行ってみた。

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カナダ、シンカンセン、アリガトウ

事務所は、デスクが二つあるだけの狭いスペースだった。女性と男性の職員がひとりずついた。入室したぼくが事情を話そうと口を開きかけると、「東京行きのひとね、代替便の手配をするわ」と女性職員がいった。彼女は、さっきの案内カウンターで怒鳴り散らしていたおばさんとは別の惑星の住人のように、親身になって対応してくれた。

彼女が端末を睨んでいるあいだ、ぼくは代替便のルートについてぼんやり考えていた。さっきラウンジで応対してくれた女性は、ヘルシンキ経由になるかもしれないと言っていた。だとすれば、フィンエアーかJALだろうから、ワンワールド系へスイッチということになる。LOTポーランド航空はスターアライアンス加盟社だけど、アライアンスを越えて対応するケースもあるのかしら。

そのとき、女性職員がこう言うのが聞こえた。「カナダでもいい?」

カナダ? 大西洋まわりということか? いや、それはちょっとなあ、と躊躇した。だが、落ち着いて考えると、やっぱり話が変だ。よくよく確認すると、なんのことはない、カナダではなく、ハネダだった。

成田行きは空席がないけど、羽田行きならまだ残席がある、これでよければ確保できるという。もちろん羽田でもなんら問題はない。即決で代替便を確保してもらった。フランクフルト経由の羽田行き、ルフトハンザ便だ(やはりスターアライアンスだった)。

女性職員は、ナリタじゃなくてごめんなさいね、みたいなことをいうので、いやまったく問題ないですと答える。すると、「じつはわたし、二週間前まで日本に旅行へいっていたのよ」と彼女はいう。そして「シンカンセン、アリガトウ」と、ちょうどカタカナを読みあげるみたいにして口にして、はにかむように笑ってみせた。

それから彼女は、代替便のスケジュールの記されたeチケット控えのような紙を一枚ぼくにわたしてくれた。

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フランクフルト経由羽田行きルフトハンザ便で帰国

ルフトハンザのカウンターに立ち寄って搭乗券を発行してもらったあと、本日三度目となる保安検査場へいった。さっきぼくの逆走を許した男性職員は、のこのこあらわれたぼくの顔を見るなり、かなり訝しげな表情をして、こう言った。「ところで、欠航したのはどの便なんだ?」

ヴィリニュスからフランクフルトへゆく便はエアバスA320だった。

二時間くらいの短いフライトだったのに、意外にも簡単なサンドイッチの機内食がでた。けっこうおいしかった。

もっと意表をつかれたことがある。それはルフトの客室乗務員たちがにこやかに笑みを浮かべてサービスしていたことだ。

往路のLOTポーランド航空ではCAさんたちはニコリともしなかったし、リトアニアでも街で出会うひとたちの多くは表情を表にださない習慣であるように見えた。だから、笑顔でサービスしているドイツ人たちの姿をみたとき、少なからず新鮮に感じられたのだった。

フランクフルトで乗り継ぐ羽田行きは、B747-8だった。ひさしぶりのジャンボだ。

ゲート前は搭乗を待つひとたちであふれかえっていた。よくこんなに載せられるなと感心するくらいの人数だった。案の定、この日の便は満席ですと、搭乗後に機内放送が入った。代替便の座席が確保できたのは、じつに幸運だった。

以後のフライトは順調だった。けっきょく当初のスケジュールより4時間ほど遅れただけで帰国することができた。

欠航理由はスト

なお、この日のLOTポーランド航空の成田行き欠航の理由について、ぼくは何も知らなかった。当日なんの説明もなかったし、ぼくも訊かなかった。訊いても仕方ないことだったし。ところが、だいぶあとになって偶然知ることになった。ストライキのため、とのことだった。

ストという言葉は、日本ではすっかり聞かれなくなってしまった。だがポーランドでは、まだ労働者の権利としてちゃんと機能しているようだ。それはそれで大事なことにちがいない。むしろストを何か不当で身勝手なことのように見なす風潮は、結果的にじぶんたちの首を絞めることになりかねない。旅行者の身としては、欠航にはまいったのだけれども。

おしまい。

リトアニア 2018/10
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長谷川 一 明治学院大学 文学部 教授。博士(学際情報学)。専門はメディア論、メディア思想、文化社会学。散歩旅を愛好。メインブログ「散歩の思考」。

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