雪雲は突然に——初積雪の十勝を走る 10 最終回

初積雪の十勝をレンタカーで走る旅その10、最終回。雪で到着が遅れ、ようやく搭乗してみたら、突然機内の照明が消えてしまった。停電だ。

飛行機が来ない――初積雪の十勝を走る 9
初積雪の十勝をレンタカーで走る旅その9。帯広空港で保安検査場を抜けて制限区域に入ったはいいが、雪のため到着便は着陸可能かどうか天候調査中だという。羽田に引き返すと決まれば搭乗予定の便は欠航になる。といって、ぼくたちにできることといえば、とりあえず着陸してくれるのを待つだけだ。
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搭乗するも出発できず

機内の照明が消えたあと、おもむろに機長の放送が入った。機体の雪を溶かすための放水の水が補助電源に入ったため、心配ないとのことだった。

全員の搭乗が終わり、天井からモニタが降りてきた。これから非常設備の説明が始まるという機内放送が入ったが、いつまでたっても何も始まらない。そのうちモニタが、クィーンという音とたててまた収納されてしまった。

そして機長の放送が入った。雪が烈しくなったため、空港当局は離陸できないと判断した。空港はこのあと再除雪をおこなう。作業完了まで一時間を要する見込みである。そのため申し訳ないが一時間以上機内で待たせるわけにもいかないので、いったん待合室に戻ってもらう、という内容だった。

それでまたぼくたちは、荷物をぜんぶもって降機することになった。隣席にいたビジネスマンふうの中年男性は、どうすればそんなにたくさん機内に持ち込めるのかわからないほどいくつもキャリーやバッグを持参していたのだが、それらをぜんぶかかえて、不満げに降機していった。

ふたたび待合室へ

こうしてふたたび、ゲート脇の待合室へ戻ってきた。

つい15分前までいたところに戻り、乗客たちが、なんとなくだるそうにベンチにこしかけた。光景だけ見ると、時間が巻き戻されたような不思議な感覚だった。

乗り継ぎの代替便手配をめぐって

乗り継ぎ予定のあるひとたちがカウンターで係員に相談していた。羽田で乗り継ぎの予定だったが、もう無理なので、代替便の手配をお願いしたいというように。

そのあとぼくはその場から離れてベンチに坐ったので、会話の続きの詳細はわからない。が、まもなくして待合室に放送が入った。けっこう衝撃的な内容だった。

いわく、代替便の手配は帯広ではできない、羽田に到着しだい直接空席待ちカウンターへいくように、という。そして、道内各地からの旅客が多数乗り継ぎができずに羽田に溜まっている状態のため、通常なら降機時に乗り継ぎのサポートをする係員を待機させるのだが、そのような余裕もない状態である、したがって乗客は羽田の空席待ちカウンターにて自力で対処してほしい、というような話だった。さらに、岡山などいくつかの空港への乗り継ぎ便はすでに残り全便満席のため本日中の手配はもうできないという。

複数路線で同時に運航ダイヤが乱れると、航空会社もなりふりかまっていられない、ということらしい。乗り継ぎのひとは地獄である。こちらは羽田にさえ帰り着くことができればいいので、申しわけないくらいだ。

再搭乗

その後何度か放送が入り、そのつど再搭乗時刻が微妙に変わった。除雪のめどがつき、実際に二度目の搭乗が始まったのは、けっきょく定刻の出発予定時刻より1時間半遅れだった。

今回はなぜか隣席のビジネスマンはあらわれなかった。理由はもちろん不明。乗り継ぎ便が手配できないということで、あきらめて帯広に一泊することにでもしたのだろうか。

まもなくプッシュバック開始。除雪は完了したということだったが、積雪はまだ地上係員の膝下くらいまである。係員のひとたちの努力は献身的だった。

雪雲は突然に……

誘導路上で飛行機がしばらく待機しているうちに西の空がみるみる明るくなってきた。まるで音をたてて舞台の幕が引かれるかのように、見ているまに、北西側から南西側にかけて黒い雪雲が切れてゆくのだった。

雪も小降りになってきた。うっすら夕陽さえ射しはじめた。お世話になった地上係員がこちらに向かって手を振っていた。今回ばかりはこちらも手をふりかえしたいくらいの気持ちだった。

乗機B737は滑走路まで移動し、けっきょく二時間以上遅れて帯広空港を離陸した。

日高山脈を横断して東京へ

風向きの関係で北に向かって離陸した。すぐに右へ大きく旋回した。上空から見ると、北も東も南も、まだ雪雲に分厚く覆われていた。西側だけ、ぽっかり雲が切れていた。

切れ間の方角には日高山脈の姿が見えた。往路と異なり、復路では、その日高山脈の上空を横断して飛んでくれた。

日高山脈の脊梁が南北に延びているのが見えた。脊梁部分は雪で白くなっているので、よくわかる。

日高の最高峰、幌尻岳に登ったのは、もう30年近く前のことになる。見えるかなと目をこらしてみたが、どれが幌尻なのか判然としなかった。あとで地図で確認したら、ルートは日高山脈の南部のようだったので、幌尻岳からはかなり離れていたものとおもわれた。

日高山脈をたちまち飛び越え、太平洋沿岸にでた。右の眼下に様似の町が見えた。その奥に見えるのが浦河である。

写真の最下部あたりに映っているのが様似、中央やや下あたりが浦河で、黒い帯状に見えるのが日高幌別川

洋上にでると、眼下は雲となった。そのあとはとくに何事もなく、羽田へ帰着した。

短い旅程だったにもかかわらず、この冬で初めて本格的な積雪を十勝で経験できたのは、幸運だった。飛行機が遅延だけですんだことも。

この項、おしまい。

十勝 2018/12
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さんぽのしっぽ

長谷川 一 明治学院大学 文学部 教授。博士(学際情報学)。専門はメディア論、メディア思想、文化社会学。散歩旅を愛好。メインブログ「散歩の思考」。

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