ピレネーを越えて──ベンヤミン・ルートを歩く 1

ヴァルター・ベンヤミンがフランスからスペインへ非合法的に国境を越えたという話は、いろんな本に出てくる。ピレネー山脈を越えるその道とは、どんなところなのだろうか。実際にじぶんの足で歩いてみることにした。

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ベンヤミン・ルートと、その概要

そのルートには現在はっきりと通有される名前は与えられていないようだ。そこで本稿では便宜上「ベンヤミン・ルート」とよぶことにしよう。そのルートが具体的にどこをどのように走っているのか。調べはじめてみたものの、最初はほとんど情報がみつからなかった。

しかし事前に調べていくうちに、じょじょにルートの概要がわかってきた。

フランスの海辺の街バニュルス=シュル=メールを出発し、丘を越えて尾根に取りつき、そのあとは尾根上を避けて一段低いところを、右手に険しい谷を望みながら尾根を詰めてゆく。そしてスペインとの国境のピレネーの稜線上に達する。そこは、海に近い自動車道からはだいぶ奥まった山中である。国境の稜線からは、東に見えるポルボウに向かって、ひたすら谷をくだってゆく。

ルートの由来と現在の状況

このルートはそれなりに合理的なものである。というのも、じつはこの道はけっこう歴史ある間道であるらしいのだ。もともと密貿易のルートであり、スペイン内戦時の共和国軍への支援ルートでもあった。1940年にベンヤミン一行がここを歩くことになったとき、現地のひとびとには「リステル・ルート」とよばれていたという。スペイン共和国軍のエンリケ・リステル将軍に由来するのだそうだ。

そして現在このベンヤミン・ルートはフットパスとして利用されているらしいこともわかった。ネット上では、あいにく日本語の詳しい情報はほとんど見つけられなかったが、英語・スペイン語・フランス語に拡げると、少し見つかった。あとは現地に行ってみるしかない。最終的に頼りになったのは、ポルボウ観光局のサイトにあったGPSデータと、現地でもらったパンフレット、ツーリストオフィスで教えてもらった情報である。

ルートのうち、とくにフランス側では、無数の道が縦横に走っており、分岐が多い。分岐をひとつまちがえると、まったくちがうところへすすみ、迷子になってしまう。しかし、詳細な地図は入手できなかった。ぼくのiPhoneやiPadminiは現地ではWiFiしかつかえないので(追記:当時は現地SIMを手に入れるという知恵がなかったのだ)、山中を歩きながらGoogleMapを参照するようなこともできない。そこで事前に、GPSデータをGoogleEarth上に展開し、そこから読みとることのできるかぎりのすべての分岐点について、どこをどう行けばいいかを確認し、行動記録用に持ち歩いているRollbahnのいちばん小さいメモ帖に記しておいた。

ルート概念図

下はGoogleMapで作成したルートの概念図。地形とあわせて見てほしい。ただし、およそのルートを示す図であって、実地で取得したGPSデータにもとづく正確なものではない。

青い点線がフランス側のルート。国境まで「2時間7分」と所要時間が出ているが、山道を含むので、実際にはもっと時間がかかる。バニュルスの駅から国境まで、ぼくの足でゆっくり歩いて3時間20分かかった(撮影や休憩の時間も含む)。

国境の稜線から先の赤色の実線は、スペイン側のルートを示している。GoogleMapでもGoogleEarthでも、フランス側のルートは山道の部分でもだいたい拾われているため、そこはグーグルが線を引いてくれる。上図の青色の点線もそう。しかしスペイン側の国境から林道までのあいだの山道の部分はグーグルの地図にはまったく拾われていないため、ぼくが手動で補完している。

なお、国境の稜線上を右に伸びているオレンジ色の実線は、直近のピークまで往復してみたルートである。ここはベンヤミンは歩いていない。

その2へつづく

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