世界でもっとも過酷な道のひとつ、ダルトン・ハイウェイを走破する旅その30。フェアバンクスから500マイルを走破して、北極海に面した石油掘削のためのキャンプ、プルドーベイに到達した。あとは来た道を帰るだけだ。
先導車があらわれた。車列が動きはじめる。ぼくも、おじさんに手を振って、走りだした。けっこう長い距離を、先導車のあとに従って走った。
やがて先導車がはずれると、前のトラックたちはたちまち速度をあげた。飛ばす飛ばす。泥どろのダートなのに時速70マイル以上だしている。この流れに付いてゆくのはやめた。この路面状態にこの速度では、カーブを曲がりきれない怖れがある。
自転車ツーリングのひとを、ひとりだけ見かけた。泥でタイヤがとられて、ほんとうに大変そうだった。全線走破するつもりだろうか。ふつうに走ってもアップダウンがきつく、距離が長いうえに、補給ポイントが極少のため、文字どおり過酷だろうとおもわれる。この日、自転車で走っていたのは、かれだけだった。
そのあともう一度先導車がつく場面があった。時間帯ゆえか、対向車はほとんど来ない。路面の補修はだいたい完了したらしい。道路にしてもパイプラインにしても石油掘削基地にしても、これだけあれこれ人出も手間もかけて維持しているのは、それだけ儲かるひとがいるということだ。日本の原発と一緒である。
川の対岸に崖が見えるところまで戻ってきた。雨は朝よりは小降りになっているようにもおもわれた。
あとはもうひたすら走る。休憩もとらならい。もっとも、休憩できそうようなところが、まったくない。250マイル先のコールドフットまで、レストランも売店も何もない。そもそも人家がない。あるのはパイプラインの関係施設か、除雪のためとおもわれる基地施設など。道の駅もなく、公衆トイレも、この区間にはほとんどない。
ひたすら走って、やがてブルックス山脈にさしかかった。分水嶺のアティガン峠へむかって、徐々に詰めてゆく。
ギアをマニュアルモードの二速でゆっくり登り、そして下る。マニュアルモードの設定の仕方は、事前にマニュアルで確かめておいた。
峠付近は濃いガスにつつまれていた。視界は数メートル。前はほとんど見えない。
峠をくだり、やがてガスの下にでた。分水嶺を越えたら天気も異なっているかも、と少しだけ期待していたが、そういうことはまったくなかった。山脈の向こうと同じように、雨と風が吹き荒れているばかりだった。
その31へつづく。