世界でもっとも過酷な道のひとつ、ダルトン・ハイウェイを走破する旅その29。フェアバンクスから500マイルを走破して到達した、北極海に面した街プルドーベイ。一時、石油会社の警備員に拘束されたものの、ぶじに放免。給油をすませ、ジェネラルストアにも立ち寄った。
さっきの警備員の話によれば、このあたりが、ダルトン・ハイウェイの終点らしい。でも、標識も碑も見つからなかった。目に映るものは、泥だらけの道路に、プレハブの建物と建設資材、それにトラックや作業用車輌ばかり。
さて、そろそろ帰途につくことにしよう。1305。ダルトン・ハイウェイは一本道だから、来たのと同じ道をまた戻るだけだ。
デッドホースの町を出たところで、いきなり停止。また通行止めである。先導車がつくらしく、それまで待機を強いられる。
作業着のおじさんが、待機しているクルマを一台ずつまわっていた。ぼくのユーコンXLの番が来たとき、どのくらい待つのか訊いてみた。「15分くらいかな」という。
「どっから来た?」
「ミシガンから」
そうぼくが答えると、おじさんは「デトロイト空港なら立ち寄ったことがある」という。
「デトロイトの街もおもしろいよ、夜をのぞけば」とぼくがいうと、かれはちょっと片笑いしてみせた。
しばらく立ち話をした。おじさんは都市工学で学士号をとったらしい。プルドーベイには9か月間の約束で来ている。いま2か月すぎたところなのだという。
「長いね」とぼくがいった。
「なに」とおじさんは答えた。「残りたった半年ちょっとだ。そう悪くもない」
そう言いながら、目をそらした。表情は複雑だった。雨の吹きさらすなか、クルマを駐めなければならない立ち仕事である。けっして楽な仕事ではない。なんというか、こういうひとがドナルド・トランプに投票するのかもしれないな、とおもった。
その30へつづく。