世界でもっとも過酷な道のひとつ、ダルトン・ハイウェイを走破する旅その32。北極海に面した石油掘削のためのキャンプ、プルドーベイからの復路。中間地点のコールドフットまで戻ってきた。
青トレーナーの女の子にお礼をいって、レストランを出発した。すぐに本線には復帰せず、ダルトン・ハイウェイをはさんで反対側にあるビジターセンターへいってみた。2100まで開いているとあった。
ビジターセンターの正式名称は Arctic Interagency Visitor Center である。
ビジターセンターでは北極圏にかんする情報を展示していた。気候、地形、動植物など。展示自体は簡素だったが、まだ新しく、それなりに力を入れているのがわかった。
建物はログハウスふうだった。ロビーにはバーモント・キャスティングの薪ストーヴがおかれて、じっさいに焚かれていた。誰かはわからないが、おじさんがひとりその前に坐りパソコンをいじっていた。売店もあった。やはりTシャツを一枚買う。
管理人は退職して再雇用か何かで働いているらしいおじいさんで、レンジャーの制服を着ていた。
アメリカ人がたいていそうするように、管理人のおじいさんもやはり「どこから来た?」と質問した。「ミシガンから」とぼくは答えた。
すると横から、さっきまで管理人と話していたリタイア世代の白人夫婦が「ミシガン?」と叫んだ。「わたしたちは、32年前にデクスターに住んでいたんだよ」
デクスターはアナーバーの隣にあるちいさな街だ。古き良き中西部の雰囲気を、いまもかすかに残している。ぼくも何度かいったことがある。そんな話を、ひとしきり交わす。老夫婦はしきりに「アナーバーはいいところだ」と褒めそやしてくれたので、お礼をいっておいた。
老夫婦は、いまはケンタッキーに住んでいるという。大きなキャンピングカーで全米各地をまわっているのだそうだ。夏のアラスカには、そういうひとが多く集まってくる。
その33へつづく。