アラスカの車中泊事情その13、最終回。前回その12はこちら。
俗化はなはだしいスワードの街から早々に退却し、近くにあるイグジット氷河 (Exit Glacier) へ寄ってみた。場所はこちら。
ビジターセンター前の駐車場にユーコンXLを停める。歩き出したときには、雨は小降りになっていた。ちらりと氷河を見るだけだからと、雨具ももたずに出たところ、途中から降りがひどくなった。
トレイルは氷河の端っこまで続いているらしかった。だが一時間ほどかかるようだったので、手前の展望スポットまでで引き返すことにした。
そこはかつて氷河があったところだった。いまは氷河は後退し、あとには氷河に削られた地形が露出して残されていた。19世紀の末の時点での氷河の端部を示す標識がたっていたが、その位置は現状より何百メートルも手前だった。それだけ膨大な量の氷河、この百年間で溶けてしまったということである。
ユーコンXLへ戻ったときには、びしょ濡れになっていた。タオルで頭を拭く。車内エアコンをつけ、温度を80度(摂氏27度弱)にしたら、ヒーターのような温風ができてた。しばらくすると、髪も服もたいていは乾いた。
ふたたびアンカレッジめざして走る。エグジット氷河から150マイルほど、2時間半くらいで着くようだ。
ところが、途中で猛烈な睡魔に襲われた。このままじゃ危ない。そのとき、たまたま右手に広い駐車帯が設置されているのが目に入った。クルマは一台もいない。迷わず入ってユーコンXLを停める。45分後にアラームをセットして、荷室へいきシュラフにくるまる。たちまち眠りに落ちた。
ハッと気がついた。30分経過していた。ちょうどいい頃合いだ。見回すと、いつのまにか前後にクルマが数台止まっていた。乗客たちは車外にでて、雪をいだいた山をバックに写真を撮ったりしていた。カップルや家族連ればかりだ。
ほんの30分ばかりではあったものの、昼寝の効果は大きかった。以後はすっきり。一時間ほど運転して、ぶじに空港へ到着することができた。
返却ブースにユーコンXLを停めた。アメリカンなフルサイズSUVは、過剰に大柄で大味ゆえ、じぶん自身ではけっして買わないであろう車種ではある。だが、この間アラスカではたいへん頼りになる相棒だった。
荷物をもってクルマから降りる。ちょっと歩き出してから気がついてユーコンXLへ戻り、最後の写真を撮った。「ありがとう、元気でな」とクルマに声をかけたい気持ちだった。「またな」と言うわけにいかないのが、ちょっとさみしく感じられた。
この項おしまい。