アラスカ車中泊事情のその7。前回その6はこちら。
その5とその6でデナリでの車中泊に寄り道をした。話は、その4(フェアバンクスのウォルマートの駐車場で車中泊したところ)へ戻る。
翌朝、0530目が覚めた。天候は曇り。早朝の駐車場は、キャンピングカーのほかにはクルマはほとんど見られなかった。バイパスに面しているため交通量があるわりには、まずまず寝られた気がする。
早朝の店内で買い物をし、書きかけの日誌のつづきを書ろ。ベーグルとバナナに紅茶で簡単な朝ごはんをすませ、0900出発した。
今日の目的地はホーマー (Homer) だ。とくに用事はない。何があるのかもよく知らない。そこが端っこなので行ってみたいというだけ。結果的に、そのホーマーで車中泊をすることになった。
地図をみればわかるように、ホーマーが所在するのはアラスカの南端、アンカレッジから南へ延びるキナイ半島の先っぽである。おそらく陸路でゆける南端になるとおもわれる。ダルトン・ハイウェイの北端プルドーベイからホーマーまでを走るということは、アラスカを陸路で南北に縦断することと、ほぼ同義である。
フェアバンクスからホーマーまで、最短ルートであれば、デナリ、アンカレッジ経由でアラスカ州道3号 (AK-3) を走ればよい。グーグルマップによれば10時間ほど。しかしそのルートはすでに走ったことがある。 遠回りになるが、AK-2を走ってデルタジャンクションでAK-4へ入り、アンカレッジへ向かうルートでゆくことにする。距離は約660マイル(1060km)。東京から札幌へゆくほどの距離である。ほとんど信号がなく渋滞もない快走路つづきだったおかげもあり、飲まず食わずで12時間半で走破した。
ダルトン・ハイウェイの風景を見てきた目には、アラスカ中部以南の風景は、きれいではあるものの、いまひとつ退屈に映った。AK-4沿いに、別荘のようなログキャビンがならんでいる区域があった。しばしば “For Sale” と看板が出ている。夏場の景色は美しいとはいえ、実際に生活するには不便だろう。なにより生計を維持する手段に乏しい。住むのも大変なら、別荘を売るのも大変にちがいない。
途中からAK-1に合流した。交通量が多くなる。ときどき工事をしていたり、やたらに遅い車がいたりで、なんとなくどの車もやや殺気立っている。谷をはさんで左手に氷河が見えた。やがて道は谷底へ下りて、森のなかを走り、川沿いを走り、山のなかに入り、また森に入った。
アンカレッジに到着したのは、1700だった。巨大スーパーマーケットのフレッドマイヤーで晩ごはん用の買い出しをして、また出発。ホーマーはまだ200マイル以上先だ。
アンカレッジ市内を抜ける。海に沿って、右手に深く海没したフィヨルドの谷を見ながら走る。湾をはさんで対岸には山が迫り、氷河が見える。交通量は多く、パーキングは車でいっぱいだ。ポーテージから湾の南へ入り込み、山を越えてゆく。
山越えの道で、ひじょうにゆっくりと走るキャンピングカーに阻まれた。ぼくの前に数台、うしろにもずらりと数珠つなぎだ。キャンピングカーの速度が遅いのは、もしかしたらレンタルで不慣れゆえなのかもしれない。イライラした車が、むりやり追い越しをかけてゆく。だが、この区間は狭くてカーブが多い。ぼくは自重した。そのうちキャンピングカーは、じぶんの引き起こしている事態に気づいたのか、路肩によけて道を譲ってくれた。
そこからは、また快走。いけどもいけども、ホーマーは遠い。
再び流れが滞りはじめた。速度の遅い車のうしろに、数珠つなぎだ。追い越し可能な区間だったので、タイミングを見て、ぼくもそのクルマを追い越した。本線に戻り、バックミラーで後方を確認した。ぼくのすぐうしろにいたクルマが追い越しをかけていた。それはいいのだが、そのすぐうしろにパトカーがおり、回転灯を点灯させたのが見えた。そのあと何がおきたのかは、わからない。
ラジオが、地元キナイ半島の局の電波をつかまえた。古いブルーズをつぎつぎかけてくれる。それを聴きながら、なお南へ向かって走る。
海沿いの尾根道にでた。ゆったりと波打つような地形だった。その風景は、北海道の寿都から島牧へ向かう国道229号のそれを想起させた。あの道を、ぼくはこれまで幾度走ったのだろう。
やがてホーマーが近づいてきた。
その8へつづく。