帯広から大津まで——初積雪の十勝を走る 1

カーテンを引くと、帯広駅前の広場はうっすら雪景色だった。

ホテルの窓から撮影した、初積雪の朝の帯広駅前。まだ薄暗いため、写真は全体に青みがかっている。

積雪量は多くはない。午前6時半すぎだが、まだ薄暗い。クルマも歩く人影も少なく、北海道で何番目かの都市とはいえ、さびしく感じられた。

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一夜にして雪が積もる

チェックアウト後、ホテル地下の駐車場へ。雪が降ったので地下にレンタカーを駐めて正解だった。

空港で借りた青いヴィッツに乗り込む。カーナビで十勝川河口を指定しようとした。だが地図上の任意の場所を行き先に指定するやり方がわからず、けっきょく、検索して出てきた大津海岸を指定する。事前にグーグルマップで調べていたのに、クルマではカーナビで場所を指定しなければならないのは、ちょっとややこしい。カーナビがスタンドアロン化しているのは非効率的だとおもうが、いっぽうで、何もかもグーグル頼みになってしまうのも気持ち悪い。その狭間を生きねばならないのが、いまのメディア社会である。

駐車場から外へ出ると、雪空に小雪がちらついていた。カーナビのいうとおり、帯広の街をまずまっすぐ東へ向かう。住宅街のようなところを抜けてゆく。信号は最小限しかなく、ところどころクランク状になって速度をあげられないようになっている。赤い実をつけたのか紅葉中なのか、街路樹の枝先が赤くなり、そこに雪が積もっているようすが目にしみた。

市内を抜けて札内川に出、少しだけ北上してR38に入る。橋を渡り、しばらく国道を東進する。「釧路100km」などという標識があらわれる。100kmというと、北海道の地理感覚ではそうとう近い。帯広と釧路のあいだには峠もないから、条件さえよければ2時間たらずで到着してしまうだろう。

路面は白く凍結しており、雪も時折烈しく降った。道路際の森は葉をすっかり落とした広葉樹が林立し、その褐色の幹が山肌に積もった雪の白色とコントラストをなしてきれいだった。左手は平原のように見えるが、十勝川が流れているため、川に沿って平地がひろがっているものとおもわれた。見渡すかぎり白色になっていた。

北の屋台

昨日まで、十勝に雪はなかった。じっさい、こんなようすだったのだ。

気象情報として正確なことはわからないが、この冬は雪は降っても積もるほどではなかったようだ。そんな話を、前夜いった帯広の飲み屋街——といっても札幌のススキノに比べればうんと小規模だ——にある「北の屋台」で聞いた。

「北の屋台」はちいさな箱形のプレハブが建ち並ぶ屋台村だった。ぼくが入ったのは「琥羊」というお店。いちばん北側のはずれにあった。

北の屋台|北海道十勝・帯広
北海道帯広市にある「北の屋台」のホームページです。各店舗のメニュー、定休日、イベント情報などをご紹介します。
琥羊(こひつじ)(第8期お店紹介)|北の屋台(北海道十勝・帯広)
北海道帯広市にある「北の屋台」の「琥羊(こひつじ)」に関するページです。

むりやり詰めこめば8人くらい座ることのできるコの字型のカウンターがあるだけ。店主は肥った気の良い感じのおじさんで、やや若いアルバイトらしい女性が手伝っていた。生ラムのたたきというのがおいしかった。清水町産のサフォークラムの肉だそうで、育てるのがむずかしく流通量が限られるのだという。

相客はラップでもやってそうな風体の若い男性二人だった。ひとりは近くでバル(スペインふう居酒屋)を出店している社長で、もうひとりはその料理長だという。帯広のひとはお金はあるのにあまり外食につかわない、というような話を、マスターとしていた。

ぼくが隅でぼんやりしているのを見かねたのか、バイトの女性がぼくに話しかけてくれた。「東京にはバルってありますか?」。ぼくが、たくさんあるみたいですねと答えると、彼女は「帯広には洋食のいいお店が少ないんですよ」といった。

そして、こんなに雪が遅いのはめずらしいけど、今晩から降るという予報だから、明日は積もる。最初の雪の日はみんな慎重に運転するから、明日の朝は少し時間を余計に見ておいたほうがいい、と教えてくれた。

自衛隊車輌も脱輪

彼女の話のとおり、初積雪のその朝、まわりのクルマは総じて慎重に走っているように見えた。

幕別をすぎるとR38は南東へ向きを変える。交通量はそこそこある。ゆっくり走る車もいるが、けっこう飛ばす車もある。ところが、途中で急に、流れが悪くなった。

すると左手に、迷彩服を着た数名がたっているのが見えた。

自衛隊のジープが道路からはみ出して土手へ突っ込み、半分落ちていた。半分で済んだのは、うしろに牽いていたカーゴトレーラーがアンカーの役割を果たしたから、であるように見えた。

走りながらチラ見しただけなので確証はないが、このジープはいわゆる1/2tトラック(パジェロ)だったようにおもわれる。

迷彩色の服を着た隊員がケータイで電話していた。別の隊員はデジカメでジープのようすを撮影中だった。たったいま事故ったばかり、であるようだった。ジープがこちら側の車線を走っていたのか、対向車線からこちらの車線を横切って落下したのかは、よくわからなかった。いずれにせよ、ジープのような悪路踏破性の高いクルマがこのありさまとは。そこまでのひどい気象条件にはおもわれなかったのだが。

たしかなのは、昨晩「琥羊」で聞いた忠告が、なるほど正鵠を射ていたことである。

十勝川ぞいに大津まで

やがてR38から右手に折れて十勝川沿いに大津まで行く分岐へ出た。そこを折れて、道道320に入る。

対向車線はほとんど交通量がない。左手にはずうっと土手がつづく。その向こうに、見えないけれども十勝川が流れているはずだ。十勝川沿いをひたすら太平洋の河口まで南下してゆく道である。雪は小止みになり、日が差してきた。道は道道911と変わった。

対向車線をこちらへ向かって走ってくる除雪車を見かけた。これから先の道がどれほど除雪されているのかわからないが、北海道で通年通行が確保されている道は想像以上にたくさん存在する。その道という道の全てを除雪してまわるのはじつに大変なことだとおもう。

R336のナウマン国道との交差点はひさしぶりに信号があった。そこをすぎると、あともうひと息で大津である。左手の十勝川の土手がぐうっと湾曲して遠ざかってゆく。それを眺めていると、すぐにちっぽけな集落があらわれた。信号のない交差点を二つ過ぎゆくと、T字路に遭遇した。その向こうは、もう太平洋である。

その2につづく。

大津海岸とナウマン国道——初積雪の十勝を走る 2
初積雪となった十勝を走る旅その2。十勝川河口の小さな集落、大津で海岸へ出てみた。海岸は雪原と化し、猛烈な風が吹いていた。そこから、ほとんど対向車の来ないナウマン国道を爆走して、太平洋岸にある晩成温泉へ向かった。