世界でもっとも過酷な道のひとつ、ダルトン・ハイウェイを走破する旅その13。北極圏に突入し、なおも走りつづけて、コールドフットへたどり着いた。フェアバンクスから約290マイル(467km)。ユーコン・リバー・キャンプから150マイルほど(約240km)。往路では、ここが最後の給油ポイントである。
コールドフット・キャンプのレストラン
給油の精算のためにレジに戻った。ついでに夕食もとりたいと申し出た。
コールドフットには、ダルトン・ハイウェイの道中で二箇所しかないレストランのひとつがある。ここを逃すと、プルドーベイまで、食事はおろか、食料を補給する場所さえ存在しない。
すると青トレーナーの女の子は、ああ、そうお? といって、夕食はビュフェ形式で、コーヒーや紅茶も含めて21ドル(だったかな)だと教えてくれた。会計はいつでもいいわよ、というので、じゃ先にといって、その場でクレジットカードで支払う。
ディスプレイ上でサインするのだが、そのさいにチップを含むことができる。ごていねいに、15, 18, 20, 25%といくつか候補を表示してくれるので、いちばん無難そうな18%を選ぶ。このシステムはアメリカでは標準的らしく、どこの店でもよく見かける。こちらとしても面倒がなくていい。
北極圏の料理
ビュフェ・コーナーには20種類くらいの料理が用意されていた。それぞれに説明書きがついている。ただし、北極圏だからといって、なにか特別なものがあるわけではない。
ざっとながめると揚げ物やタンパク質の料理が多そうだ。ぼくは野菜がたべたかったので、サラダを多めにとる。チキンのチーズ焼きも一切れ。パンの類いはパスした。「今日のスープ」はフィッシュチャウダーとあったのでひと皿もらったが、野菜がたくさん入っていて、おいしかった。ダルトン・ハイウェイで、温かい料理は貴重である。
店内はにぎわっていた。お客さんの主力はやはりトラック・ドライバーだ。だれもかれもがレスラーのような体格で、ひげも伸ばし放題で、見るからに豪快である。かれらにはタンパク質類がよろこばれるのだろう。
ただ、よく見ると、フライドチキンやキャットフィッシュ(なまず)の唐揚げといったように、ボリュームはあるものの、素材は比較的安価なものばかりだった。
飲み物のなかに、ルートビアがあった。root beer と綴るが、ビールではなく、アルコールなしのソフトドリンクだ。アメリカでは一般的らしいが、それまでぼくは飲んだことがなかった。それで、ものは試しと、ちょっと飲んでみた。ドクターペッパーみたいな薬っぽい味がした。もういいや。
口直しにコーヒーを飲む。
落書きと貼り紙だらけの店内
食事のあと、トイレを借りる。いちおう水洗だった。
壁はいたるところ落書きだらけ。新聞の切り抜きやらもぺたぺた貼ってある。
建物は、質素な木造だった。壁もけっして厚くはない。これで冬場などどうやって乗り切るのだろうかと心配になるくらいだった。
ここの常客といえばトラック・ドライバーだろうが、今日は夏の週末ということもあってか、バイク客も多く、にぎわっていた。中年以上の年代の白人で、グループで来ているようだった。いい歳してもツルみたがるのは、洋の東西を問わないみたいだ。
その14へつづく。