世界でもっとも過酷な道のひとつ、ダルトン・ハイウェイを走破する旅その16。ルートはブルックス山脈の深奥へと分け入る。いよいよ、アティガン峠が迫ってきた。
チャンダラー・ステーション
どこまでも谷を詰めてゆく。
まもなく、チャンダラー・ステーション (Chandalar Station) という看板とともに、格納庫のような蒲鉾形の建物が見えてきた。除雪、あるいは道路補修用の屯所のようなところだとおもわれた。
このときは気がつかなかったが、あとでグーグルマップで確認すると、写真の右手あたりに滑走路があったようだ。小型のプロペラ用のものだろう。
峠へ向かうガレの道
道の傾斜がかなりきつくなってきた。右側には、いちおうガードレールが設置してある。その向こうは深い谷。崖から落ちたら一発でアウトだろう。
道路の幅員は大型車どうしのすれ違いを可能にするだけ確保されている。路面状態も悪くない。
ただ、このあたりまで来ると、山は岩だけでできているようなガレの山だ。ちょっとしたことで、すぐに崩れてしまいそうに感じられる。
低木さえ、もう消えていた。岩の隙間にこびりつくようにして生えた草だけが、唯一の緑である。
道は、ダートではあるもののよく踏み固められている。轍もない。こまめに整備されているようだ。峠の直下には道路工事用の機材がおかれていた。工事中らしかったが、土曜日の夜なので(明るいけど)誰もいなかった。
こんな場所にこの道路を維持するために、これだけの手間と費用を投じても、割があう、ということなのだろう。世の中に「オイルメジャー」というものが存在する理由が、わかったような気がした。
アティガン峠
ユーコンXLは自動モードにしてあったが、もちろんずっと四輪駆動だった。ゆっくりと、しかし着実に登ってゆく。そうして、登りきったところの右手(谷側)に駐車帯がつくってあったので、そこにクルマを停めた。
アティガン峠である。
峠の標高は4739フィート(1444m)。アラスカでもっとも標高の高い峠であり、冬場は雪崩の巣窟となるのだそうだ。
峠に立ってみる。まわりは、氷河によって削りとられたいくつものカールによって、屏風のように取り囲まれている。
アティガン峠は、ブルックス山脈を越える唯一の峠でもあり、そしてまた、大陸分水嶺でもある。
これまでダルトン・ハイウェイ沿いを流れる川は、南向き、すなわちフェアバンクス方面へ向かって流れていた。この峠を越えると、川は北向き、すなわち北極海へ向かって流れてゆく。
アティガン峠を越えて
アティガン峠を越えると、道は下り坂となる。
ギアを2速に入れてエンジン・ブレーキを利かせながら、慎重にゆっくりとくだってゆく。
ほどなくして、雨が振りはじめた。
その17へつづく。