世界でもっとも過酷な道のひとつ、ダルトン・ハイウェイを走破する旅その31。フェアバンクスから500マイルを走破して到達した、北極海に面した石油掘削のためのキャンプ、プルドーベイ。復路は来た道を南へ向かって走る。
ブルックス山脈を越えて南の山麓まで下りてくると、それまでほとんど見ることのなかった樹木が姿をあらわすようになった。
あいかわらずの雨だ。速度は抑えめにして、ひたすら走る。刻々変化する気象や路面に淡々と対処していると、運転する機械になったみたいな気持ちになる。
ダルトン・ハイウェイのほぼ中間地点コールドフットに到着したのは、1900だった。昨日とほぼ同じ時間だ。あれから24時間がすぎたということである。その間に、ブルドーベイまで往復500マイルを雨のなか走り、また戻ってきたわけだ。
することもまた昨日と同じだ。給油し、ビュフェで食事を摂る。サラダバーをお皿に山盛りにした。チキン・シチューと書かれたスープは、クリーム味だった。野菜カレーというスープもあった。たべたら甘く、まるでカレーらしくなかったのがおかしかった。
こういうお店ではたいていTシャツや帽子を売っている。ここも例外ではなかった。せっかくなのでTシャツを1枚買うことにした。胸のところに “Coldfoot” と地名が大書されている。最初の入植者が冬のあまりの厳しさに逃げだした、という逸話(歴史的事実かどうかは不明)に由来するのだとか。
レジにいたのは、昨日お世話になったヒスパニック系の女の子だった。
彼女はぼくの顔をみるなり、「あなたのことを覚えているわ」といってくれた。「ブルドーベイまで走ってきたんだ」と説明した。彼女は昨日と同じ薄青色のトレーナーを着ていた。
「毎日よく働くんだね」ぼくが言った。
「そうよ。でも夜だけは仕事から解放されるの」彼女は答えた。
とはいえ、ここは白夜の世界だ。外はまだ昼間と同じく明るい。「夜」が訪れるのは、いつになるだろう。
その32へつづく。