カウナス行きの切符は、とくに問題もなく手に入った。列車の発車まで小一時間ある。どうしようか。
5ユーロ札を疑われる
とりあえずお昼代わりにコーヒーでも飲もう。そうおもい、コンコース脇にあった売店のカウンターへいった。そして、エスプレッソを頼んだ。
代金は1ユーロだった。手持ちの5ユーロ札を差し出したら、売店のおばさんはその紙幣をたがめすがめする。偽札かと疑っているみたいだ。ほう、リトアニアではこういう対応にも遭遇するのか。
そのユーロ札は、昨夕ビリニュス空港に到着したときにATMで引き出しておいたものだった。偽札が混入する可能性は相対的には高くないだろう。
おばさんの疑念は、もしかするとぼくがアジア系だったことと関係しているのかもしれないが、よくわからない。ともかく、ここで争ってもあまり良いことはなさそうな気がした。
そこで、10ユーロ札を差し出して、そちらで会計してもらった。必然的に、おつりに少額コインをたくさんもらうことになった。おばさんとしてはかえって面倒だったかもしれないのだが、こちらとしては両替代わりになって助かった。
ビリニュス駅の鉄道博物館(入館せず)
コンコース脇に、鉄道模型のジオラマがおかれていた。
鉄道模型愛好家ならば、ジオラマではなく「レイアウト」とよびたいところだ。ただ、ごらんのように、正直そこまでまじめにつくられたようすはない。どちらかといえば、子どもだまし、といった印象である。
その横に、鉄道博物館の入口があった。二階にあるようだった。入ってみたかったが、時間的なこともあり、今回はパスした。
地下通路をくぐってホームへ
コンコースの正面には、このように地下へつづくエスカレーターが設置してある。ヨーロッパの駅舎ではよく見かけるパターンである。
地下通路におりてホームへ歩いてゆく。表示板に「カウナス行き」の案内がでていた。英語では Kaunas と綴るが、表示板の標記は Kaunaとなっていた。
ホームからの眺め
ホームへの階段を登ると、そこにカウナス行きの列車がすでに入線していた。
総二階建ての三両編成。前にシドニーで見かけた列車とよく似た形状におもわれた。
隣のホームには、貨物列車が停まっていた。ディーゼル機関車が、タンク車と無蓋貨車をそれぞれ一両ずつ牽引しているだけ。入換作業の途中なのだろうか。
遠くにある別のホームには、これよりもだいぶ古びた列車が入線していた。電車ではなく、おそらくは気動車(ディーゼルカー)だろう。
上の写真にも写っているとおり、列車の背後には、力士のような巨大なフィギュアが立っていた。列車の屋根に達するほどの高さで、かなり巨大だった。あれが何だったのかは、まったく不明である。
ホームの端で警備員に注意される
プラットホームはごらんのようにむやみやたらに幅が広い。
いちばん端まで歩いていった。そのさらに先の構内のはずれに、古い蒸気機関車が留置されていた。その写真を撮ろうとおもったのだ。
そのとき、ピーッと笛の鳴る甲高い音がした。見ると隣のホームの端に建っている歩哨小屋みたいな建物から女性警備員かでてきて、ぼくのほうを厳しい目つきでにらんでいる。そして、そちらにゆくなと手真似で合図した。
いちおう、ただ写真を撮りたいだけなんだと言ってみる。だが警備員のおばさんは、英語を解さないのか、そもそも何語という問題ではないのかは不明だが、ともかく首を横に振るばかり。ここはあきらめて離脱するのが賢明だろう。なにせ相手は武装しているのだし。
そして、こういうことがあると、じぶんが遭遇した事態をつい、この国が旧共産圏だったことと結びつけて解釈しようとしてしまう。
列車の車内
列車のなかに入ってみた。車両は新しい。3両編成の総二階で、2等ばかり。
座席は日本式にいう四人がけのボックス型。でも広軌ゆえ幅員はかなり余裕がある。
座席まわりにUSBなど充電の設備はない。ただ坐るだけ。腰かけて20分ほど待つうちに、バラバラと乗客が乗ってきた。最終的には、各ボックスにひとりずつ程度の乗車率となった。
1220、とくにアナウンスもなく出発した。ビリニュス駅をでるとすぐ、右手に車両基地があらわれた。いいぐあいに使い込まれた車両が留置されているのが見えた。
一時間ほどかけてビリニュスへ向かう。途中に見える風景といえば、地平線まで続く畑や疎林ばかりだった。森の木々の葉は黄色く色づいて半ば落葉しており、ほぼ冬枯れに近い状態だった。雨も降りだし、車窓は寒々としていた。